紀の川・世界初の全身麻酔での乳がん手術が行われた華岡青洲の住宅「春林軒」
道の駅青洲の里に隣接するのが、「春林軒」です。華岡青洲とは、麻酔薬「通仙散」を発明し、世界初の全身麻酔による乳がん摘出手術に成功した江戸時代の医師。「春林軒」はその華岡青洲が開いた住居兼病院、医学校を復元した建物です。
華岡青洲の功績を住居から学ぶ
「春林軒」の入口です。入館料は大人200円、小中学生100円。左手の受付案内で支払い、案内図をもらいます。
春林軒の主屋は、もともとの江戸時代の建物を修復したもの。紀の川市の文化財に指定されています。中では、人形での当時の様子の再現と、自動音声による案内が行われます。人形の前に立つと突然話しだすので、ちょっとびっくりするかもしれません。
こちらは「手術室兼薬調合室」。手術室は室内を清潔に保つため板の間になっています。棚には大量の薬草の瓶が並びます。青洲は麻酔薬「通仙散」を作るために、何度も調合を変え、約20年にわたって実験を繰り返しました。最終的には「マンダラゲ」「トリカブト」「ビャクシ」「トウキ」「ナンセイシャ」「センキュウ」の6つの薬草から「通仙散」を作ります。
手術の様子が人形で再現されています。世界最初の全身麻酔による乳がんの摘出手術を受けたのは、奈良の五条に住む藍屋利兵衛の母・勘(かん)でした。当時、乳房は女性の急所であり、切ると死に至ると信じられていた中での決断でした。
華岡青洲の妻・加恵の姿も
こちらは青洲の妻、加恵が麻酔の実験で眠っているところを見守る青洲と実母のお継を再現した様子。
華岡青洲をモデルにした小説作品といえば、和歌山出身の作家、有吉佐和子の『華岡青洲の妻』が有名です。青洲は動物実験で麻酔薬を完成させたものの、実際に手術で使うには人間で試験する必要があります。その実験台に名乗り出たのが、妻の加恵と母のお継。二人は何度も未完成の麻酔薬を飲んで調合を調節する実験に協力します。しかし、麻酔薬には副作用もありました。後にお継は死去、加恵は両目を失明します。
有吉佐和子の物語では、青洲の歓心をかうため、嫁と姑が競う様子が描かれていますが、実際は加恵とお継のほかにも実験台に名乗り出た親族はいたようです。加恵は紀州の名家である妹背家の出で、その住宅「旧名手宿本陣」も青洲の里の近所に残されています。
入院用の病室も3部屋再現されています。
トイレの前には、昔の和式便器がおいてありました。
感染症を予防するため、患者用にはあえて汲み取り式のトイレを作らず、箱型の便器に用を足したあとで、宅地の外に捨てに行く方式をとっていたといいます。これも珍しい文化遺産ですね。
「世界初の全身麻酔下の手術」という華岡青洲の偉業に触れることができる春林軒。蔵や使用人部屋なども残されており、昔の民俗文化が好きな人にもおすすめです。
訪れる際は、公式ホームページなどで最新情報をチェックしてください。
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